PA音と配信音は別物

イベントのPA音声をそのまま配信に流すと、多くの場合うまくいきません。

会場スピーカー向けのミックスは「その場にいる人に届けること」を前提に作られています。一方、配信の音声は「スピーカーのない視聴者の耳に直接届く」ものです。この前提の違いから、以下のような問題が起きます。

  • 会場の残響(リバーブ)が配信音に乗って聞き取りにくくなる
  • スピーカーのモニター音がマイクに回り込んでいる
  • PAのフェーダーバランスが視聴者には不自然(会場補正がかかっている)
  • メインフェーダーの操作が配信音量にも直接影響する

配信用に別系統のミックスを作るのが理想です。完全分離が難しい場合でも、少なくとも「配信専用の音量調整ができる経路」を設けることで安定します。

分岐の基本パターン

パターン1:AUX送りで分岐

最もシンプルで広く使われる方法です。ミキサーのAUXバスを「配信送り」として使います。

各マイク・音源
    ↓ チャンネル入力
ミキサー
    ├── メインアウト → パワーアンプ → 会場スピーカー
    └── AUX OUT → 配信PC(またはVR-6HD等のAVミキサー)

設定のポイント:

  • AUXをプリフェーダー(PRE FADER)に設定する
    → PAフェーダーの操作が配信レベルに影響しなくなる
  • 各チャンネルのAUXつまみで「配信に送る量」を個別に調整できる
  • 会場PA用EQとは独立して配信音のバランスを作れる(デジタルミキサーの場合)

デメリット:

  • アナログミキサーではAUX系統数に制限がある(2〜4系統が一般的)
  • モニター送りと配信送りが同じAUXバスを競合する場合がある

パターン2:ダイレクトアウト(インサート送り)で分岐

各チャンネルのダイレクトアウトから信号を取り出し、配信用ミキサーに送る方法です。

各マイク
    ↓
ミキサー(チャンネルのダイレクトアウト)
    ├── メインミックス → 会場スピーカー
    └── ダイレクトアウト(プリEQ / プリフェーダー)→ 配信専用ミキサー
                                                          ↓
                                                        配信PC

特徴:

  • PA側のEQ・エフェクトの影響を受けない「生」の信号が取れる
  • 配信ミキサー側で完全独立したミックスが作れる
  • 規模の大きいイベントや本格的な収録に適している

デメリット:

  • 配信専用のミキサーや追加機材が必要になる
  • 設置・接続が複雑になる

パターン3:AVミキサーを中継に使う

Roland VR-6HD のように音声ミキサーを内蔵したAVミキサーをPA系統と配信の間に挟む方法です。

PAミキサーのAUX OUT(配信送り)
    ↓ アナログケーブル(XLRまたはTRS)
Roland VR-6HD(LINE IN)
    ├── PA音声 + カメラ映像を統合
    └── USB-C → 配信PC(OBS)

特徴:

  • 映像と音声を一括でPCに送れる
  • VR-6HDのミキサー機能で配信音の最終調整ができる
  • 会場PAとは完全に独立した音量制御ができる

Roland VR-6HDとの組み合わせ

実際の現場で使っている構成の詳細です。

PAミキサー(YAMAHA MG系等)
    ├── メインアウト → パワーアンプ → スピーカー
    └── AUX 1 OUT(プリフェーダー設定)
             ↓ XLRケーブル
        VR-6HD LINE IN(CH5またはCH6)
             ↓
        VR-6HD の内蔵ミキサーで音量・EQ調整
             ↓
        USB-C → 配信PC → OBS → YouTube

VR-6HD側の設定:

  • 入力チャンネルのソースを LINE IN に切り替える
  • INPUT GAIN を適切なレベルに設定(AUX出力のレベルに合わせる)
  • 配信ミックスとして音量・EQを微調整

この構成の利点は、PAオペレーターが会場音響に集中しながら、配信担当者がVR-6HD側で独立して配信音量を調整できる点です。

よくある失敗:ハウリング・レベル差・遅延

❌ ハウリング(フィードバック)

AVミキサーの出力を同じPAミキサーの入力に戻してしまうとループが起きます。

対策: 配信からの返し音はモニタースピーカーには流さない。配信PCのヘッドフォン出力をそのまま入力に戻さない。

❌ レベル差が大きすぎる

PAミキサーのメインアウトをそのまま配信機材に繋ぐと、レベルが大きすぎて歪む場合があります。

対策: AUX送りのレベルを下げる、またはATTENUATOR(アッテネーター)を挟む。VR-6HDのINPUT GAINで調整する。

❌ 映像と音声がズレる

スイッチャーを経由すると映像に処理遅延が発生します。音声だけ先に届くと口パクのようになります。

対策: OBSの「音声の詳細プロパティ」→「同期オフセット」で音声を遅らせて映像に合わせます。スイッチャーのディレイ値(VR-6HDの場合は約1〜2フレーム)を確認して調整します。

実際の設定例

設定項目
PAミキサーのAUX1 プリフェーダー送り
AUX出力レベル 0dB(基準)
VR-6HD入力レベル LINE IN、INPUT GAIN で調整
配信音声ビットレート(OBS) AAC 192kbps
音声同期オフセット(OBS) 実測して調整(30〜100ms程度が多い)

まとめ

PA音声を配信に分岐する基本は「プリフェーダーAUX送り → 配信機材へ」です。会場PA用のフェーダーと独立して配信音を制御できる経路を用意することで、オペレーターの負担を分担でき、配信音質も安定します。Roland VR-6HDとの組み合わせはこの分岐が最もシンプルに実現できる構成の一つです。