「ゲイン上げたのに音が小さい」「フェーダー上げても音が出ない」の原因

ミキサーを触り始めたとき、ゲイン・トリム・フェーダーの関係が分からなくてハマるパターンは決まっています。

  • フェーダーを上げても音が出ない → ゲインが 0 dB のまま
  • ゲインを上げたのに他のチャンネルと音量が合わない → トリムで微調整する場面
  • 音が出たり出なかったりする → フェーダーが下がっている

3 つは同じ「音量を調整するもの」に見えて、信号フローの異なる段階で、異なる目的のために存在します。

信号フローで見る3つの位置

信号フロー:アナログゲイン→A/D変換→トリム→フェーダー→出力

マイクから出た信号が出力されるまでの流れは上の図のとおりです。

操作子 信号の段階 動作領域
アナログゲイン A/D変換の前 アナログ
トリム(デジタルゲイン) A/D変換の後 デジタル
フェーダー ミックス段 デジタル

フェーダーとトリムはどちらもデジタル領域ですが、役割がまったく異なります。


① アナログゲイン(プリアンプゲイン)

何をするか

ダイナミックマイクが出力する信号は −50〜−60 dBu 程度と非常に微弱です。この信号をそのまま A/D 変換器に渡しても、デジタル値はほぼゼロになります。

アナログゲインは、このマイクの微弱な信号をデジタル領域に存在させるための最初の増幅です。

設定しないとどうなるか

アナログゲインが 0 dB のままだと、A/D 変換後にもほぼ無信号の状態が続きます。フェーダーはデジタル信号の音量を変えるものなので、信号が届いていなければどこまで上げても音は出ません。

「フェーダーを上げても音が出ない」の原因の大半はここです。

目安値

マイクの種類 アナログゲインの目安
ダイナミックマイク(SM58 等) 50〜55 dB
コンデンサーマイク 40〜50 dB 程度

レベルメーターを見ながら、ピーク時に −18〜−6 dBFS に入るよう調整します。

一度設定したら動かさない

アナログゲインはチャンネルの「感度設定」です。セッティング時に適切な値を決めたら、本番中は原則動かしません。ここを本番中に触ると音量が大きく変化して混乱します。


② トリム(デジタルゲイン)

何をするか

アナログゲインで信号をデジタル領域に持ってきた後、チャンネル間のレベルをそろえるための細かい調整に使います。

例えば:

  • マイク A はアナログゲイン 52 dB でちょうど良いレベル
  • マイク B は同じ 52 dB では少し大きすぎる

このとき、マイク B のアナログゲインを下げても良いですが、デジタルゲイン(トリム)で −2〜−3 dB 下げる方法もあります。特にデジタルミキサーやAVミキサーではトリムが使いやすい位置に配置されています。

フェーダーとの違い

トリムはフェーダーより上流にある「調整済みの基準レベルを作る」ための操作子です。フェーダーは「そのチャンネルをミックスにどれだけ混ぜるか」の操作子です。役割が異なります。


③ フェーダー

何をするか

ミックス内での音量バランスをリアルタイムで調整するものです。

  • 話者が変わるとき:前の人のフェーダーを下げ、次の人のフェーダーを上げる
  • 質疑応答でフロアマイクを上げる
  • BGMを下げてアナウンスを上げる

フェーダーは本番中に動かすことを前提に設計されています。

0 dB(ユニティゲイン)の意味

フェーダーの「0 dB」は「信号を増幅も減衰もせずにそのまま通す」位置です。通常の運用ではフェーダーを 0 dB 付近に置き、アナログゲインとトリムで適切なレベルに整えた上で使います。


3つを整理すると:設定の順番

3つの操作子の役割比較

正しい設定の順番は以下のとおりです。

  1. アナログゲインを設定する(マイクごとにレベルメーターを見ながら調整)
  2. トリムで微調整する(複数チャンネルのレベルをそろえる)
  3. フェーダーで本番操作(ミックスバランスをリアルタイムに調整)

この順番を逆にすると混乱します。フェーダーから先に触っても、アナログゲインが適切でなければ本来の音は出ません。


Roland VR-6HD での対応

VR-6HD では、タッチスクリーンのチャンネル設定から以下にアクセスできます。

操作子 VR-6HD での名称・場所
アナログゲイン チャンネル設定 → ANALOG GAIN
トリム / デジタルゲイン チャンネル設定 → DIGITAL GAIN
フェーダー 本体のチャンネルフェーダー

アナログゲインのデフォルトは 0 dB です。マイクを繋いだら必ず最初にアナログゲインを上げるのが VR-6HD 運用の基本です。

詳細は「VR-6HD マイク入力のアナログゲイン設定」も参照してください。


まとめ

アナログゲイン トリム フェーダー
動作領域 アナログ デジタル デジタル
役割 信号をA/D変換できるレベルに チャンネル間レベル調整 ミックスの音量操作
設定タイミング セッティング時 セッティング時 本番中も操作
0 dBのままだと 音が出ない 問題ない(調整不要なら) 問題ない(通常は0付近)

「フェーダーを上げても音が出ない」と感じたときは、まずアナログゲインを確認してください。