なぜイベントでVLANを分けるのか
「観客がWi-Fiでスマホを使い出したら配信がコマ落ちした」——これはVLAN分離なしの構成で起きる典型的な問題です。
全機器が同じネットワークにいると、観客のスマートフォンやスタッフのPCが帯域を消費した分だけ配信が影響を受けます。NEC IX2105 はコンパクトながら VLAN・QoS・複数DHCPサーバーをサポートしており、イベント現場への持ち込みに適した業務用ルーターです。
構成の概要
この記事では以下の構成を想定します。
StarLink(またはONU)
↓
NEC IX2105(GE0: WAN)
↓
L2管理スイッチ(トランクポートで接続)
├── VLAN10 ポート → 配信PC・スイッチャー
└── VLAN20 ポート → スタッフ用Wi-Fi AP
| VLAN | 用途 | サブネット |
|---|---|---|
| VLAN10 | 配信系(配信PC・スイッチャー) | 192.168.10.0/24 |
| VLAN20 | 運営Wi-Fi(スタッフ端末) | 192.168.20.0/24 |
基本設定
インタフェース設定
IX2105 のWAN側(GE0)はDHCPクライアントとしてStarLinkルーターや光回線のONUに接続します。
! WAN側(GE0):DHCPクライアント
interface GigaEthernet0
ip address dhcp
ip dhcp-client hostname ix2105-event
no shutdown
VLANサブインタフェースの作成
IX2105 ではサブインタフェース(GigaEthernet1.10等)にVLAN IDを割り当てることでVLANを構成します。
! VLAN10:配信系
interface GigaEthernet1.10
encapsulation dot1q 10
ip address 192.168.10.1 255.255.255.0
no shutdown
! VLAN20:運営Wi-Fi
interface GigaEthernet1.20
encapsulation dot1q 20
ip address 192.168.20.1 255.255.255.0
no shutdown
備考: GigaEthernet1 をL2スイッチへのトランクポートとして接続します。スイッチ側でもトランク設定(802.1Q)が必要です。
IPアドレス設定(DHCP)
各VLANに対してDHCPサーバーを設定します。
! VLAN10 DHCPプール
ip dhcp-server pool STREAMING
network 192.168.10.0/24
default-router 192.168.10.1
dns-server 8.8.8.8 8.8.4.4
lease 0 4 0
! VLAN20 DHCPプール
ip dhcp-server pool STAFF
network 192.168.20.0/24
default-router 192.168.20.1
dns-server 8.8.8.8 8.8.4.4
lease 0 4 0
NATの設定
両VLANからインターネットへ出られるようNATを設定します。
ip access-list standard NAT-TARGET
permit 192.168.10.0 0.0.0.255
permit 192.168.20.0 0.0.0.255
ip nat inside source list NAT-TARGET interface GigaEthernet0 overload
interface GigaEthernet0
ip nat outside
interface GigaEthernet1.10
ip nat inside
interface GigaEthernet1.20
ip nat inside
QoS設定:RTMPを優先する
アクセスリストでRTMPを識別
RTMP(TCP 1935)のトラフィックを分類します。
ip access-list extended MATCH-RTMP
permit tcp 192.168.10.0 0.0.0.255 any eq 1935
permit tcp 192.168.10.0 0.0.0.255 any eq 443
配信PCのIPを直接指定する方法もあります(より確実):
ip access-list extended MATCH-RTMP
permit tcp host 192.168.10.100 any eq 1935
ポリシーマップで帯域を割り当て
class-map match-any STREAMING-CLASS
match access-group name MATCH-RTMP
policy-map STREAMING-POLICY
class STREAMING-CLASS
priority percent 40
class class-default
fair-queue
WAN側インタフェースにポリシーを適用します:
interface GigaEthernet0
service-policy output STREAMING-POLICY
これにより、RTMPトラフィックはWAN帯域の最大40%を優先的に使えるようになります。
StarLinkとの組み合わせ時の注意点
NATの二重がけを避ける
StarLinkはデフォルトで内部NATを持っています。IX2105をそのまま接続すると NATが二重 になり、一部のアプリケーションで通信が不安定になることがあります。
対処法は2つあります:
方法1:StarLinkをバイパスモードにする(推奨)
StarLinkアプリからルーターのバイパスモード(ブリッジモード)を有効にします。これにより、StarLinkからIX2105が直接グローバルIPを取得できます。
方法2:IX2105でダブルNATを受け入れる
バイパスが使えない場合はそのまま接続します。RTMP配信(送信型)は二重NATでも問題なく動作します。SRTリスナーモード等の受信型は影響を受けます。
帯域上限の設定
StarLinkの上り帯域は変動します。QoSの設定と合わせて、配信ビットレートを上り実測値の50〜60%以下に設定しておくことが安定運用のポイントです。
設定確認コマンド
設定後に以下のコマンドで動作を確認します。
! インタフェース状態
show interface GigaEthernet0
show interface GigaEthernet1.10
show interface GigaEthernet1.20
! DHCPリース状況
show ip dhcp binding
! NATテーブル
show ip nat translations
! QoSポリシー適用確認
show policy-map interface GigaEthernet0
まとめ
IX2105 を使ったイベントネットワークのポイントは3つです。
- VLAN分離 — 配信系と運営Wi-Fiをサブインタフェースで分ける
- DHCP — VLANごとに独立したアドレス帯を割り当てる
- QoS — RTMP(TCP 1935)を最優先クラスに設定する
StarLink利用時はバイパスモードの設定をセットで行うと、NATの問題を回避できます。設定例のコマンドはIX2105のファームウェアバージョンによって構文が異なる場合があるため、実機で確認しながら投入してください。